大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(ネ)797号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの本訴請求をいずれも棄却する。

三  控訴人と被控訴人らとの間において、控訴人が別紙供託金目録記載の供託金につき還付請求権を有することを確認する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴とも、第一、二審を通じて、被控訴人らの負担とする。

理由

一  当裁判所は、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないので棄却すべきであり、控訴人の反訴請求は理由があるので認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決九頁六行目の「三明」から同一〇行目の「その理由は」までを「サン・ラポール南房総の設置者である三明(訴外会社)と入居者であるハル及び身元引受人兼返還金受取人である控訴人の三者間において締結されたものであること、終身入居金等を現実に支払ったのは控訴人であるが、本件入居契約上は、終身入居金等は入居者であるハルが支払ったものとされていること、控訴人が終身入居金等をハル名義で支払った理由は、」と改める。

2  原判決一二頁五行目の「返還金」から同一四頁五行目末尾までを「入居者は、返還金受取人一名を定めて三明(訴外会社)に届け出なければならず、届け出た返還金受取人が死亡する等して返還金の受領を不可能又は困難ならしめる事情が生じたときは、直ちにその旨を届け出るとともに、三明(訴外会社)の承認を得て、新たに返還金受取人を定めなければならないものと定められているが、返還金受取人の資格についてはこれを入居者の相続人に限る等の制限を何ら付していないのであり、このような本件入居契約の定めに照らし考えると、本件入居契約が入居者と並列的に返還金受取人を定めることを要求している趣旨は、本件入居契約が終了して返還金を返還すべき場合、特に入居者の死亡により本件入居契約が終了して返還金を返還すべき場合とか、入居者の死亡以外の理由により本件入居契約が終了した場合でも、入居者が意思能力を喪失した等入居者に返還金の受領を不可能又は困難ならしめる事情が生じたときなどに、三明(訴外会社)において、入居者の相続人その他実体法上返還金の返還を受くべき権利を有する者を調査・確定することを要せず、あらかじめ届け出られている返還金受取人に対して、同人が実体法上右権利を有するかどうかを問うことなく、返還金を返還することによって、本件入居契約上の返還金の返還義務の責めを免れることを目的としたものであると解するのが相当である。そして、右のような本件入居契約が返還金受取人を定めることを要求している趣旨並びに本件入居契約が返還金は入居者又は返還金受取人に返還すると定めていることに照らせば、本件入居契約上本件返還金の返還を受ける権利を有するのは、入居者のハルと返還金受取人として届け出られている控訴人のみであり、ハルの相続人その他ハルの遺産について権利を有する者は、その権利を有しないものと解さざるを得ない。なお、付言すれば、本件においては、実質的にみても、本件返還金の返還を受ける権利を有するのは、控訴人であって、ハルではないといわざるを得ない。すなわち、前記認定のとおり、控訴人は、本件入居契約の成立に当たり、ハル名義で終身入居金等を支払ったのであるが、その理由は、控訴人は、ハルの生存中同女と同居してその面倒をみることを条件として父太郎のほとんど唯一の遺産である借地権付建物を相続したところ、その後ハルがサン・ラポール南房総に入居することとなり、ハルと同居してその面倒をみるという右の条件を履行することができなくなったため、その代償として終身入居金等を出捐することになったものであるから、控訴人がハル名義で終身入居金等を支払ったからといって、控訴人がこれをハルに贈与したものとみるべきではなく、終身入居金等は出捐者である控訴人に帰属しているものとみるべきである。そして、入居者が死亡した場合における返還金の返還は、いわば過払の終身入居金等の返還としての性質を有するから、ハルの死亡によって返還される本件返還金が控訴人に返還されるべきは当然のことであり、これがハルの遺産を構成するものとは解し難い。したがって、本件返還金の返還を受ける権利を有する者は、本件入居契約上からみても、実質的にみても、控訴人であり、供託された本件返還金の還付請求権は控訴人に帰属するというべきである。

以上によれば、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、控訴人の反訴請求は理由がある。」と改める。

二  よって、当裁判所の右判断と異なる原判決を取り消して、被控訴人らの本訴請求をいずれも棄却し、控訴人の反訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 関野杜滋子 裁判官 杉原則彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例